資産形成において、大切なことは、「相場に残り続けること」とよく言われます。
なんとなく、そうかな、という感じもしますが、ここでは、認知バイアス「Hot-Cold感情移入ギャップ」を考えることで、「相場に残り続けること」の意味をまとめていきます。
人生において、感情は一番大切なものです。
抑圧したり、歪曲したりせずに、心理傾向を生かした形で資産形成を行っていきましょう。
Hot-Cold感情移入ギャップとは
概要
Hot-Cold感情移入ギャップは、心理学者/行動経済学者、ジョージ・ローウェンシュタインが提唱した認知バイアスです。
人は、感情が高まっている状態(Hotな状態)の心理状態を、冷静な状態(Coldな状態)のときは予測できない、という心理特性をもっていることを「Hot-Cold感情移入ギャップ」といいます。
反対の場合も同様です。
冷静な状態のときも、Hotな状態を予測できません。
これは、どちらかの状態が異常なのではなく、どちらも人間本来の傾向と理解する必要があります。
つまり、Hot-Cold感情移入ギャップに対処するためには、発生確率が低い異常な状況下の対処ではなく、平時の対処が必要と考える必要があります。
実験結果
では、Hot-Cold感情移入ギャップがどのようなものかを把握するために、認知心理学で行われた2つの実験について説明します。
実験1(経験した感情への共感性が高まる)
被験者を以下の3つのグループに分け、グループごとに異なる経験を与えたのち、ある記事に対する感想を聞く方法で行われました。
- [グループ1]仲間外れにされているような疎外感を感じさせる感覚を与える
- [グループ2]平等に扱われているような感覚を与える
- [グループ3]何も操作を行わない
各々のグループに異なる経験を与えたのち、ある監禁事件の被害者に関する記事を聞かせ、共感の強さを比較しました。
その結果、[グループ1]の被験者が、他のグループよりも強く監禁をやめるべきと回答しました。
つまり、ある種の経験で喚起された感情が、その後の心理状態に影響を与えたことになります。
[グループ1]の被験者が味わった「疎外感」がHotな状態となり、被害者に対する共感が起きやすくなったと解釈できます。
実験2(過去の経験はギャップの解消に寄与しない)
経験した感情から時間が経過した際にはどうなるか、という実験も行われています。
被験者を以下の3つのグループに分け、グループごとに異なる経験を与えたのち、ある記事に対する感想を聞く方法で行われました。
- [グループ4]氷水に手を浸す
- [グループ5]常温の水に手を浸す
- [グループ6]氷水に手を浸した後、10 分間、別の作業を行う
各々のグループに異なる経験を与えたのち、あるシベリア抑留者に関する記事を聞かせ、共感の強さを比較しました。
その結果、[グループ4]の被験者のみが、他のグループよりも強く監禁をやめるべきと回答しました。
同じ経験をして10分間しか、時間が経過していないにも関わらず[グループ6]の被験者が共感を示していません。
つまり、過去となった経験は、その後の心理状態に影響を与えないことになります。
特徴
実験結果から、Hot-Cold感情移入ギャップには以下の特徴があることがわかっています。
- 感情はその後の心理状態に影響を与える
- 過去に経験した感情は、心理状態に影響を与えない
相場に残りづつけることで感情移入ギャップを低減できる
では、資産運用、特に投資行動において、Hold-Cold感情移入ギャップを適切に制御するためにはどのような対処が必要かまとめます。
Hot-Coldな状態を繰り返すことで価格変動に慣れる
投資において、まず感情を揺さぶられるのは、価格変動です。
価格変動により、大きく評価損を抱えた場合は、気分は下がりますし。
評価益で有頂天になります。
もっともよい対処法は、「相場に残り続けること」です。
相場に残り続けることで「価格変動」に慣れ、ギャップのきっかけとなる感情の揺れを低減させることです。
投資における「単純接触効果」といってもいいかもしれません。
これがないと、買ってやられ、売ってやられ、で感情的にも負のループにはいり、継続した資産形成が困難になります。
下落相場の対処法を学ぶことができる
まずは、小額からでも相場に残り続け、小さな成功体験と失敗体験を作り続けることが重要です。
小さな成功体験と失敗体験を繰り返し、その都度、学ぶことで対処法が身についていきます。
たとえば、特に下落相場では、信用取引で「売り」から入る投資手法や、アセットアロケーションで資産配分を工夫し、価格変動リスク緩和する等を行うなど様々な対処法があります。
対処法がわかっていれば、想定外のケースの発生によって、感情を大きく揺さぶられることは少なくなります。
相場の動きや経済の仕組みを理解できる
相場に残り続けることで、頻繁に取引しなくとも、投資手法のみではなく、投資対象の仕組みや特徴も理解できるようになります。
経済がどういう状態になれば、株価はどのように変動するか、経済指標から可能性を推測できるようになれば、事前に準備することができます。
また、事前に想定された事象であれば、不意打ちで発生する場合に比べ、感情の高まりは抑えることができます。
わかっていれば耐えられる。ある程度はね。
暴落時・高騰時の対処法
わかっていても耐えられない。
それが、暴落時です。
自然災害や国際紛争等、予想もできない要因で不定期にかならず発生します。
高騰時も同様です。
こちらは利益がでているだけに、気づかず過剰なリスクを負ってしまうことがあります。
どうしても、暴落時や高騰時の異常な状況下ではやはり感情が動いてしまいます。
その場合の対処法としては、以下があります。
事前に運用ルールを決めておく
Hot状態になってしまうと、もはや対処はできません。
それではどうしたらいいのかというと、平時に原因や対処法を決めておくことが重要です。
つまり、投資ルールを事前に決めておき、それを守ることです。
たとえば、評価益10%で利益確定する、とか。
設定したアセットアロケーションを1か月ごとにリバランスする、とか。
感情を交えず、機械的に作業できるルールを設定しておきましょう。
これを守るために、メンタルを鍛える必要があります。
すぐに動かず、時間を置く
Hot-Cold感情移入ギャップは、時間経過で消滅することが実験結果からわかっています。
つまり、時間を置くことも対処法の一つです。
目の前で、下がり続ける株を前にして、苦しいですが、行動する前に「一息入れる」です。
時間を作ることで、感情が高まったHotな状態を抑え、Coldな状態の到来を待ちます。
この対応法がとりづらいという意味では、短期取引はリスクが高いです。
ルーチーンをつくっておく
感情を常にColdな状態に戻す方法を確立しておく対処法です。
スポーツ選手がよく取り入れている「ルーチーン」という手法です。
ルーチーンは特定の動作だったり、食べ物だったり、色だったりと、ひとそれぞれです。
ひとそれぞれですが、ルーチーンの確立には、成功体験が必要です。
この動作をすると成功すると確信できなければ、ルーチーンの意味がないので。
この成功体験を作る意味でも、相場に残りつづける重要性があります。
まとめ
人生において、感情はもっとも大切なものです。
問題は、感情を動かすことが悪いのではなく、将来、自分がどれだけ感情的になるか認識できないことです。
ここでは、認知バイアス「Hot-Cold感情移入ギャップ」の視点で、相場に残り続ける利点をまとめました。
自分の感情とうまく付き合い、資産形成を継続的に実施していきましょう。
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