投資においては、リスク管理のために資産分散が重要と言われます。
確かに、相関性の低い資産クラスを分散保有することは、市況の変化でのリスクを低減する重要な手法です。
では、分散すればするほどよいのか、というのが本記事のテーマです。
資産分散は、「投資対象のリスク分散」という意味で合理的な方法です。
しかし、投資するのは僕たちです。
資産分散が、「投資するひと」に与える影響について、まとめていきます。
- ポートフォリオ全体のリスクが変わらないのであれば、銘柄数は少なくする方向で検討することが大事
- コストだけでなく、認知バイアスを解消するためにも、時間分散は重要
- 集中力のピーク年齢前後で、投資スタイルを変えるべき
注意すべき認知バイアス
資産を分散すると、人はそれらに注意を奪われます。
少なくとも、1つの対象より、100個の対象のほうが、より注意力・集中力を必要とすることは自明です。
では、その状況下で起こりうる心理的な傾向・認知バイアスについて4つ紹介します。
選択的注意
選択的注意とは
選択的注意とは、複数の情報があるとき、人はその中から選択的に注意を向けることを言います。
たとえば、大きな会場で多くのひとが会話している場合でも、相手の会話が容易に聞き取ることができます。
これは、カクテルパーティー効果と呼ばれますが、周囲のざわめきの中でも特定の相手の音声だけを聞くことが可能です。
このように、多くの情報の中がある場合、必要なものに選択的に注意が向けられます。
逆に言うと、選択されなかった多くの情報は認知されない、ということです。
実験
有名な実験がyoutubeで視聴できるため、体感いただきたいです。
日本語字幕をONにして御覧ください。
「白い服を着ている人々が何回バスケットボールをパスしたか、教えてください」
選択されなかった情報が認知されないことを気づかせてくれる実験
注意の瞬き
注意の瞬きとは
注意の瞬きとは、注意を払わなければならない対象が短時間内に複数現れるとき、後続のものが見落とされがちになることを言います。
この現象は、その仕組みについてはいくつかの理論があり、共通の解釈は無いようです。
注意の瞬きは、意識的に注意を向けることで解消することがわかっています。
また、注意の瞬きは視覚だけでなく、聴覚や触覚などでも生じることが知られている。
実験
これも体感しましょう。
動画で1文字ずつ、アルファベットがいくつか出現しますが、その中に数字が2つ混じっています。
2つ目の数字は何でしょうか?
フレーミング
フレーミングとは
フレーミングとは、枠付けをすることで、ものの見方を特定の方向に誘導することを言います。
実験
被験者に、イギリスの雑誌『エコノミスト』の定期購読について、どれを選ぶかについて質問する実験です。
- (1) ウェブ版だけの購読(59$)
- (2) 印刷版とウェブ版のセット購読(125$)
この選択肢で質問すると、選択肢(1)を選んだのは68人、選択肢(2)が32人の結果でした。
選択肢を増やしてどれを選ぶか質問した場合はどうでしょうか?
- (3) ウェブ版だけの購読(59$)
- (4) 印刷版だけの購読(125$)
- (5) 印刷版とウェブ版のセット購読(125$)
この場合、選択肢(3)16人、選択肢(4)0人、選択肢(5)84人の結果となりました。
選択肢(1)と(3)、選択肢(2)と選択肢(5)は、最初の実験と全く同じ内容です。
しかし、選択肢(4)が入ることで、選択肢(1)と選択肢(2)の好みが逆転しています。
選択肢(4)が「おとり」として機能しています。
「おとり」の選択肢が入ることで、枠組みとして「(4)印刷版だけの購読(125$)」と「(5)印刷物とウェブ版のセット購読(125$)」に注目させられた結果、同じ内容に対する判断そのものが逆転してしまっています。
この実験は、おとりの選択をいれることで、選択の問題の枠組みをうまく再構築すれば、判断を誘導することが可能であることを示しています。
アンカリング
アンカリングとは
アンカリングとは、先行する何らかの事柄(アンカー)によって、その後の判断がゆがめられ、判断された事柄がアンカーに近づく傾向のことを言います。
対象の事柄とは本質的に関係のない、先行して与えられた事柄に、推論の出発点を置いてしまうことで、判断がそれに引きずられてしまいます。
実験
はじめに被験者には0から100までのルーレットを回してもらいます。
ルーレットの出目を確認してから、以下の2つの質問を訪ねる実験です。
- アフリカの国の中で国連に加盟しているのは、今出た目の数の割合(パーセント)よりも多いか少ないか
- アフリカの国の中で国連に加盟しているのは、実際には何パーセントか?
質問(2)の回答は、質問(1)の回答とは本質的に無関係です。
しかし、ルーレットの「10の出目」を見た被験者は質問(2)の回答の平均は35%、「65の出目」を見た被験者の質問(2)の回答は45%となりました。
質問内容に、全く無関係なルーレットの出目を推論の出発点にしたことで、ルーレットの出目に近い割合を回答しています。
金融資産のポートフォリオについての考察
4つの認知バイアスについて俯瞰してみましたが、それを踏まえて僕たち「投資するひと」はどうあるべきかまとめます。
銘柄分散
まず、ポートフォリオにおける銘柄分散についてです。
たとえば、個別株では、セクター分散など相関性を考慮して、資産クラス全体のリスクが下がるように検討することと思います。
もちろん、銘柄分析は、投資を理解する上で生きてくるスキルが身につくので、真面目に取り組むべきものです。
しかし、好きで継続できる人以外は、銘柄数を絞ったほうが判断ミスを減らすことで、トータルとしては投資成果に有効に働くことが多いと思います。
ETFを活用して銘柄数は、可能な限り減らしましょう。
特に、相関性の高い銘柄を複数保有することは、ほとんど意味がないので、1つに定めていきましょう。
暴落時など短期間で対応を検討しなければならない事態になった際に、銘柄数が多いとどうなるか、という視点を持つ必要があります。
時間分散
次に、時間分散についてです。
時間分散して投資を行うことで、ドルコスト平均法など、トータルリターンに寄与するものとして重要と言われています。
コスト面だけでなく、相場の1局面でその瞬間の必要な情報を十分、かつ正しく把握しているか、という点でも集中投資は回避すべきと思います。
時間分散することで、検討材料を集め、冷静に対応することが可能となります。
いずれの認知バイアスも、時間をおいて冷静に判断すれば解消可能です。
まとまった資金がある場合も、時間分散してじっくりと資産形成していきましょう。
その際に発生する待機資金については、別枠で資金運用を考えるのが、あるべき姿と考えます。
年齢による判断力の差異
年齢に応じた考慮についてです。
下の図は2017のBUSINESS INSIDERの記事です。
年齢とひとの能力のピークはいつかをプロットしています。
当然、個人差はありますが、集中力のピークは概ね「43歳」。
43歳からは、判断契機を減らすことで、その後の集中力低下に伴う判断ミス等の発生を予防できると想定できます。
逆に、43歳までは投資の学習効果も含めて考えると、あえて銘柄は絞らずに、様々な投資を経験したほうがよいと思います。
若い方は積極的に挑戦しましょう。
まとめ
認知バイアスに囚われないように、投資における資産分散はどうあるべきかをまとめました。
同じような銘柄をもっていないか?
集中投資していないか?
年齢に適した投資スタイルになっているか?
今の自分と今後の計画を見直してみましょう。
- ポートフォリオ全体のリスクが変わらないのであれば、銘柄数は少なくする方向で検討することが大事
- コストだけでなく、認知バイアスを解消するためにも、時間分散は重要
- 集中力のピーク年齢前後で、投資スタイルを変えるべき
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