投資において、一時的な下落に気が動転して、少ない利益でヤレヤレ売りしてしまったり、大きな含み損を抱えながらも、損切りできなかったりする方も多いと思います。
なかなか解決しないこの悩み、いったいどういう原因があるのでしょうか。
本記事では、行動経済学のプロスペクト理論を援用し、このテーマについてまとめていきます。
- 利益に比べ、損失は2倍つらい
- 利益は、何と比較するかによって満足度が変わる
- 論理的な思考で金額を試算することで対処可能
- テクニカル分析で機械的な運用ルールを徹底することで対処可能
- ファンダメンタルズ分析でトレンドを見極めることで対処可能
プロスペクト理論
プロスペクト理論とは
プロスペクト(英語prospect)とは、「見込み、展望、期待」という意味です。
プロスペクト理論は、利益または損失がでる状況が実際に起きる「確率」と、ひとが認識する「心理的な確率」が異なることを理論化したものです。
ひとは、客観的な「確率」に従って行動するのではなく、「心理的な確率」に従って行動します。
このことをプロスペクト理論では下のグラフでこのことを表現しています。
横軸は、利得と損失を伴う「金額」で、縦軸が、満足度を表す「価値」です。
中央の交点「参照点」で、上下非対称になっていることがわかります。
次にこのグラフの意味をまとめます。
2つの認知バイアス
プロスペクト理論では、2つの認知バイアスを基軸にしています。
利益と損失の心理的価値の違い
1つ目の認知バイアスは、利益と損失の心理的価値が異なる、ということです。
まず利益の部分ですが、利益ゼロ(=参照点)から、なだらかに上昇しています。
これは、利益が大きくなっても、それに伴う満足度は比例して大きくならない、ことを意味しています。
次に、損失の部分ですが、同様に損失ゼロ(=参照点)から、なだらかに下降しています。
横軸の目盛りが一定なことに注意してください。
利益ゼロから得られた満足度(=縦軸の値)よりも、同じ金額の損失の場合の満足度(不満)が、2倍くらいになっています。
ひとは損失のほうが、利益よりも2倍つらいということです。
心理的価値の基準は変化量
2つ目の認知バイアスは、心理的価値(=満足度)の基準が「変化量」に基づくことです。
グラフ中央の交点(=参照点)がそれを表します。
これが何を示しているかというと、たとえば、利益が10万円でたとしても、ライバルの同僚が5万円の利益を得ている場合、満足度は5万円相当である、ということです。
何を基準として、金額を考えるかによって満足度が変わることを示しています。
危険回避
では、実際に行われた実験をもとに、プロスペクト理論が何を言わんとしているかまとめていきます。
実験1(利得領域)
まずは、利益についての実験です。
次の[くじA]と[くじB]のどちらがいいですか?
- [くじA] 25%の確率で6000円、75%の確率で0円がもらえるくじ
- [くじB] 25%の確率で4000円、25%の確率で2000円、50%で0円がもらえるくじ
多くの人が、[くじA]より[くじB]を好む結果となります。
25%の確率で一度に6000円もらえる[くじA]のほうが利益は高いですが、50%の確率で4000円、もしくは2000円もらうほうが、満足度が高いという結果です。
これは、金額が大きくなるにつれ、満足度が頭打ちするからです。
実験2(損失領域)
次に、損失についての実験です。
次の[くじC]と[くじD]のどちらがいいですか?
- [くじC] 25%の確率で6000円、75%の確率で0円を支払わなければならないくじ
- [くじD] 25%の確率で4000円、25%の確率で2000円、50%で0円を支払わなければならないくじ
今度は、[くじC]のほうが、[くじD]よりも好まれる結果となります。
利益の場合と逆に、一度に6000円を失うほうが、4000円を失い、次に2000円を失うより、高い満足を得ることを意味します。
利益の場合と同様に、金額が大きくなるにつれ、不満が頭打ちするためです。
それに加えて、損失の場合、利益に比べ2倍の不満を感じます。
実験3(損失回避)
では、この利益と損失から得られる満足度(不満度)の違いはどのように実験で確認できるかを見てみます。
次の[くじE]と[くじF]のどちらがほしいですか?
- [くじE] 50%の確率で100円がもらえて、50%で100円を支払わなければならないくじ
- [くじF] 50%の確率で1000円がもらえて、50%で100円を支払わなければならないくじ
[くじE]を「いらない」と答え、[くじF]を「ほしい」と答える人が多い結果となります。
[くじE]は、運が良くても100円しかもらえないのに、50%の確率で逆に100円支払うことになるので、心理的には理解できますよね。
しかし、もらえる金額(利益)をもっと大きくすると、初めは[くじE]を「もらわない」と答えた人が、どこかでも「もらう」に変わります。
50%の確率で1億円もらえたら、100円支払ってもよいと思ってしまいますもの。
その境界を測定すると、利得と損失の満足度(不満度)は、2.25倍損失のほうが大きいという結果が得られています。
投資における対処法3選
私はインデクス投資だから、利益確定しないし、関係ないわ、という方もいると思います。
しかし、自分が投資しているものがどのようなものか理解せずに、自分の資産を投資するのは非常に危険な行為です。
本質的に売り買いをしていることに真剣に向き合いべきと考えます。
では、投資における3つの対処法を見てみましょう。
対処法1)常に論理的に試算し、合理的に行動する
実験例からわかるとおり、冷静かつ論理的に考えれば、正しい結論を導くことが可能です。
長期運用を想定した金融資産の場合、比較的に容易に対処できます。
しかし、これが成立するのは、長期的にプラスサムとなる株式相場だけです。
僕たちが食って寝て生きていくためには経済活動が必要であり、資本主義社会でそれを提供する企業は利益を求めて常に成長する方向に動くからです。
この意味で言うと、長期運用の株式投資以外は、ほぼ短期取引とみなすべきです。
短期投資では場当たり的に相場に乗るのではなく、事前に金額の絶対値でかならず試算しましょう。
そして、事前に決めた自分のシナリオに従って感情交えず売買を行いましょう。
対処法2)テクニックとして習慣化する
次の対処法は、テクニカル分析に基づいた機械的な判断に従うことです。
テクニカル分析をベースに事前に運用ルールを決め、ルールを徹底することで心理的な影響を回避できます。
とはいえ、相場の山谷でどうしても感情が揺さぶられます。
ルールを徹底するために、可能な限り相場にとどまり、繰り返し取引を行い、成功体験・失敗体験を積み上げて習慣化する必要があります。
ただし、テクニカル分析を過信することはやめましょう。
テクニカル分析は1つの分析として、相場のファンダメンタルズやセンチメント、愚直な損得試算などを必ず併用しましょう。
あくまでも、感情を排し運用ルールを徹底するためのものと考えましょう。
対処法3)大局的なトレンドを見極める
最後は、相場の大局的なトレンドを見極めて、相場の動きを予測することです。
国や企業などの経済の基礎的なさまざま状態を分析します。
ファンダメンタルズ分析と呼ばれます。
ファンダメンタルズ分析により、どのような経済環境で、どのような相場の反応が起こるか理解できるようになります。
しかし、容易に想像がつくように、これが一番難しい。
えてして、自然災害や国際紛争等で、かき回されますし、かなりの部分に政治的思惑が働き人為的なものになりやすいです。
そのため、ファンダメンタルズ分析で相場の予測に終始するのはやめましょう。
専門家やニュースを参考にすることは大切ですが、それに影響されないように注意しましょう。
実際の売買を重視して、あくまでもファンダメンタルズ分析は参考に、自分の相場感を磨くものと考えましょう。
まとめ
プロスペクト理論で整理された心理バイアスに対し、3つの対処法をまとめました。
3つの対処法は、ごちゃごちゃにしないことが大切です。
1つ1つ分けて分析しないと、よくわからない結果になってしまいます。
当然、全部できなくても不十分でも構いませんし、そもそも誰もできません。
できたら市場は存在できませんもの。
まずは相場にいることが重要です。
そのために人生の目的をもって、楽しく投資で資産形成していきましょう。
- 利益に比べ、損失は2倍つらい
- 利益は、何と比較するかによって満足度が変わる
- 論理的な思考で金額を試算することで対処可能
- テクニカル分析で機械的な運用ルールを徹底することで対処可能
- ファンダメンタルズ分析でトレンドを見極めることで対処可能
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